「大企業のイノベーションのジレンマ」という言葉をご存知でしょうか。
安定した収益源となる既存事業がある大きな組織では、ルールやマニュアルなどといった「再現性」が重視されるため、再現性の低い新しい挑戦へのハードルが高くなってしまう傾向があります。
また、多くのステイクホルダーを抱える大きな組織では、各関係者への配慮や根回しの必要性から、新規事業をスピーディーに生みだすのは困難だという実態があります。
このように、イノベーションを起こしたくても起こせない状況を「大企業のイノベーションのジレンマ」と呼んでいます。
そこで、今、社内だけに挑戦者を求めるのではなく、社外の挑戦者を巻き込んだ「オープンイノベーション」が注目されています。
大企業ならではの豊富な社内リソースを活用して、外部のベンチャー企業などと連携し、新たな商品やサービスを生み出していくのです。
ところが、大企業とベンチャー企業では組織風土、価値観、事業推進のスピードが全く異なるため、オープンイノベーションと一口に言ってもどのようなケースがあるかイメージが湧かないということもあるでしょう。
本記事では、海外の先進的な事例を参考に、どのようにオープンイノベーションを成功に導くべきかについて記載します。
海外各国の企業でのオープンイノベーションの4つの事例
①:ダイムラー 〜インキュベーション+ベルリンでスピンオフプログラムを実施〜
1883年にカール・ベンツが創業し、現在は乗用車およびトラックの世界的メーカーであるドイツのダイムラーは、”Lab1886”とうオープンイノベーションをスピーディに行うための新組織を、本体のダイムラーとは切り離した形で設立しました。
Lab1886では、創業者ベンツの「The Love of inventing never dies」というパイオニア精神にのっとりスタートアップマインドを重んじています。また、イノベーションが生まれるためのグローバルコミュニティを作ることにもにも非常に積極的です。
Lab1886では、ベルリンにダイムラーフリートボードイノベーションセンターを設置し、ロジスティックスに焦点を当てたプログラムを主催しています。
社内外のアイディアを積極的に取り組み生まれたアイディアは、コアビジネスを超えた革新的なサービスとして素早く実現されていきます。
②:LEGO〜オープンイノベーション専任部署を開設〜
LEGOはデンマーク発祥の世界的玩具ブランド、日本国内にも愛好者が多い企業です。
創業100年近い老舗企業であるLEGOは、毎年革新的なチャレンジにより、世界一の業績を上げています。
その背景には、LEGOが、以下のようなユニークな価値観をもっていることが大きいと言われています。
・イノベーションを阻害するるのは、大企業内の組織や価値観である
・イノベーションに繋がるアイディアをもたらすのは社内の人間である
・LEGOに貢献するには必ずしも社員である必要は無い
・アイディアは優秀な消費者から生まれる
この価値観こそ、まさに「オープンイノベーション」の価値観といえるでしょう。
実際に、LEGO社内にはオープンイノベーションの専任の部署が存在し、社外からのアイディア募集や、社外ベンチャーへのインタビューやアライアンスに積極的です。
昨今では、LEGOアイディアサイトというサイトも開設し、社内のメンバーだけに頼らず、社外をうまく巻き込みながら世界的に愛される商品開発につなげている良い事例でしょう。
③:GE〜オープンイノベーションのアイディア募集コミュニティを開設〜
アメリカで130年の歴史を誇る家電の大手メーカーであるGEも、”Ecoimagination challenges”と呼ばれるオープンイノベーションのためのプログラムを提供しています。
そして、GEのオープンイノベーションチームでは、下記のようなビジョンを設定しています。
・想像力、勇気、専門性、アイディアを元に積極的に社外コラボレーションを行う
・アイディアは、社外から積極的に一般公募する
・良いアイディアには市場へのインパクトを想定した上で、正当な報酬を支払う
・協業する相手に対しては、プロジェクト開始時にルール、報酬、知的所有権などの条件を公開する
・社外の良いアイディアをさらにブラッシュアップするために、社内のアセットへのアクセスをオープンにする
これらの価値観に基づいて、GEでは、ファーストビルドと呼ばれるスタートアップとGEが連携するオープンイノベーションのためのコミュニティプラットフォームを開設し、世界中から新たな家電製品のアイディア、制作手法等を募集しています。
また、WEB上でも、GE open innovationと呼ばれるアイディア募集サイトを用意し社内起業家を常時募集しているのです。
④:SAP〜世界各国のスタートアップと連携して新製品を開発〜
SAPは、創業50年のドイツ企業であり、世界最大級のソフトウェア会社です。
日本ではあまり知られていませんが、SAPは日本でも約1,300人、全世界で9.3万人の社員を擁しており、全世界の商取引の約80%がSAPのシステムを経由しているという、圧倒的シェアを誇ります。
SAPは創業50年の老舗起企業にも関わらず、ここ最近でも、2011年〜2018年の7年間で、世界の売上総額を143億ユーロから247億ユーロへとおよそ2倍近くに拡大させるなど目覚ましい成長を続けています。
そんな老舗企業の成長の背景にも、「オープンイノベーション」が大きく関わっています。
SAPでは15年も前から、「デザイン思考」が企業文化として取り入れています。
外部からアイディアを募集し、プロトタイプを作り市場の声を聞きながらスピーディーにブラッシュアップをしていくというものです。
さらに、SAPは全世界6カ所でスタートアップ支援のためのアクセラレーションプログラム「SAP.iO」を展開し、各国から新しいアイディアやイノベーションの創造にチャレンジしています。
SAP日本法人であるSAPジャパンでも、三菱地所と提携して、オープンイノベーションのためのコラボスペース「Inspired.Lab(インスパイアードラボ)」を開設し、「SAP.iO Foundry Tokyo」というアクセラレータープログラムをスタートしています。
SAP.iO Foundry Tokyoでは、スタートアップとの連携だけでなく、約38億円規模の投資ファンド機能も有していて、日本のベンチャーにも積極投資をしています。
こうした、積極的に外部に投資をしていくマインドこそが、老舗企業にもかかわらず正解規模で業績を成長させられる要因なのです。
オープンイノベーション先進国に学ぶ成功の極意
こうした海外の事例からも分かるように、社外の挑戦者を積極的に巻き込みながら自社のアセットを活用してイノベーションを起こしていくというのが、大手企業が次なる成長を手にする有効な手段といえるでしょう。
今回ご紹介した企業のなかには同じアジアの韓国Samsungや、日本のように、ものづくりが強く堅実で保守的なイメージの強いドイツSAPなどでも成功事例もあります。
豊富なリソースを持つ日本企業としても、こうした海外の現地企業で学ぶことで、オープンイノベーションを起こすきっかけづくりができるかもしれません。
bistream/バイストリームでは、日本と価値観が似ているドイツ・ベルリンの先進的なスタートアップ企業で働きながら学ぶことができるプログラムを提供しています。世界基準でのオープンイノベーションの実践方法や、海外スタートアップとの連携にご関心がある企業担当者様はぜひご相談ください。